地球や多くの惑星の表層環境を規定する上で大気や海洋は重要な役割を担っています. 例えば現在の地球地表平均温度はだいたい摂氏 15 度ですが, これは大気の温室効果と大気・海洋の流れが熱を南北に輸送することによって維持されています. したがって, 大気組成や大気・海洋の流れが変化すれば表層環境も変化することになるわけですが, そのメカニズムは必ずしも明らかにはなっているわけではなく, 変化の予想は未だにたやすくはありません. まして, 地球表層環境が生命を育む惑星として過去 45 億年間の長きにわたって, 全球凍結などの事象を経験しつつも, かなり安定に存在しえたということは驚異というべきものであり, その安定性がどのように保たれてきたのかはまだよく理解されていない問題です. 地球および惑星大気科学研究室では, 惑星科学研究センター (CPS) と協力して以下の 3 つのテーマの研究を通して, 地球をその 1 つとする惑星大気一般の気象や気候システムを支配する理の解明を目指しています.
1. 惑星気象学
太陽系内の地球型惑星 (地球・金星・火星) の大気運動を比べてみると, 金星ではスーパーローテーションと呼ばれる全球を 4 地球日で一周する速い東風が吹いており, 火星では小規模なものから惑星全体を覆うほど大規模なものまで様々なダストストームが発生するといった, 地球では見られない不思議な大気現象が存在していることが知られています. また, 太陽系外に発見されている惑星は, 太陽系内惑星と大きく異なるパラメータ (公転軌道の軌道長半径, 離心率, 惑星半径, 自転軸の傾きなど) を持っていることが示唆されており, その表層環境・循環構造は太陽系内惑星とは大きく異なる可能性があります. このような地球とは異なる大気現象がどういったメカニズムで発現しているのか, またなぜそのような現象は地球では見られないのか, さらには太陽系外のまだ見ぬ惑星の大気循環はどういったものでありえるのか, そういった問題を理論的・数値的に研究しています. また, 金星探査機「あかつき」など惑星探査データの解析や将来の探査計画にも参画しています.
2. 地球流体力学
惑星大気においては, 自転していることと重力の効果による密度成層のために大気海洋中の流れは大きな影響を受け, 直感では理解しがたい奇妙な振る舞いをすることが知られています. 一方, 地球海洋の流れと木星や土星大気の流れには思わぬ類似性があったりもします. このように様々な惑星大気中の流れを理解するためには, そこに現れる流れ・渦・波動などの性質とそれらの相互作用について知る必要があります. こうした惑星大気の運動の基礎となる回転と成層が働く流体の多様な振る舞いに関する知識を得るための理論的・数値的な研究を行っています.
3. 計算情報気象学
惑星気象・気候を探求し, また, その運動を支配する地球流体の振る舞いを調べる上で, 数値計算は大きな力です. 当研究室では, 惑星気象・気候あるいは地球流体を探求するための数値モデルの開発のみならず数値計算が吐き出す膨大なデータを処理するユーティリティーの開発という, 研究手法の探求にも力をいれており, 全国の研究グループと協力してこれを行っています (地球流体電脳倶楽部). これらの道具を用いて「富岳」や「地球シミュレータ」, 国立天文台, 宇宙科学研究所, 国立環境研究所のスーパーコンピュータを駆使したシミュレーション実・アを共同で行っています.
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